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岡山地方裁判所 昭和55年(わ)741号 判決 1982年12月25日

裁判所書記官

古谷秀基

本店所在地

岡山県御津郡御津町大字草生一〇八四番地

成廣建材株式会社

右代表者代表取締役

成廣全通

本籍

岡山県御津郡御津町大字草生一〇八四番地

住居

同右

会社役員

成廣全通

大正一五年五月二〇日生

右両名に対する各法人税法違反被告事件につき、当裁判所は、検察官佐藤信昭出席のうえ審理し、つぎのとおり判決する。

主文

被告人成広建材株式会社を罰金六〇〇万円に処する。

被告人成廣全通を懲役八月に処し、この裁判の確定した日から二年間その刑の執行を猶予する。

訴訟費用は被告人両名の連帯負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人会社は、岡山県御津郡御津町大字草生一、〇八四番地に本店を置き、砕石・砂利採取等を営業目的とする資本金一、六〇〇万円の株式会社であり、被告人成広全通は、被告人会社の代表取締役として右被告人会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人成広は、被告人会社の業務に関し、法人税を免れる目的をもって、タイヤの売上除外、受取保険金の除外、架空給与の計上、架空仕入の計上などの不正の方法により所得を秘匿したうえ

第一  昭和五一年一〇月一日から同五二年九月三〇日までの事業年度における被告人会社の実際所得金額は四、九九九万七、二二七円で、これに対する法人税額は一、八四六万一、七〇〇円であったのにかかわらず、同年一一月三〇日、岡山市伊福町四丁目五番三八号所在の岡山西税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額は九九九万八、〇九三円で、これに対する法人税額は二四九万七、九〇〇円である旨の虚偽の確定申告書を提出し、もって右正規の法人税額との差額一、五九六万三、八〇〇円の法人税を免れ

第二  昭和五二年一〇月一日から同五三年九月三〇日までの事業年度における被告人会社の実際所得金額は、八、九六五万四、一六八円で、これに対する法人税額は三、三八四万七、九〇〇円であったのにかかわらず、同年一一月三〇日、前記岡山西税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額は五、九〇四万六、八六一円で、これに対する法人税額は一、七一〇万八、三〇〇円である旨の虚偽の確定申告書を提出し、もって右正規の法人税額との差額一、六七三万九、六〇〇円の法人税を免れたものである。

(証拠の標目)

判示事実全部につき

一  大蔵事務官藤井一成の告発書

一  押収してある法人税決議書一冊(昭和五六年押第一〇〇号の一)

一  押収してある昭和五二年度総勘定元帳一冊(同号の二)

一  押収してある昭和五三年度総勘定元帳一冊(同号の三)

一  押収してある金銭出納帳一冊(同号の四)

一  大蔵事務官藤井一成作成の調査事績報告書(接待交際費の確定について)

一  難波孝雄の大蔵事務官に対する質問てん末書

一  大蔵事務官藤井一成作成の調査事績報告書(消耗品((タイヤ))の架空計上額の確定について)

一  グッドイヤータイヤサービス株式会社岡山店長藤井正夫作成の証明書

一  出射任の大蔵事務官に対する質問てん末書

一  出射任の検察官に対する供述調書

一  西山孝の大蔵事務官に対する質問てん末書

一  西山孝の検察官に対する供述調書

一  大蔵事務官藤井一成作成の調査事績報告書(たな卸消耗品((タイヤ))の除外金額の確定について)

一  大蔵事務官吉松隆作成の調査事績報告書(減価償却超過額の確定について)

一  大蔵事務官吉松隆作成の調査事績報告書(架空給与の確定について)

一  森本恵子の大蔵事務官に対する質問てん末書

一  成広茂子の大蔵事務官に対する質問てん末書

一  大蔵事務官吉松隆作成の調査事績報告書(受取保険金の除外分の確定について)

一  内田有方の大蔵事務官に対する質問てん末書二通

一  内田有方の検察官に対する供述調書

一  安田火災海上保険株式会社岡山支店サービスセンター第一課長山田晴己作成の証明書

一  大蔵事務官吉松隆作成の調査事績報告書(受取手数料除外分の確定について)

一  田中幸彦作成の上申書

一  大蔵事務官藤井一成作成の調査事績報告書(雑収入((タイヤ売上))の除外金額の確定について)

一  大蔵事務官吉松隆作成の調査事績報告書(受取利息除外額の確定について)

一  大蔵事務官岩崎清吉郎作成の調査事績報告書(機械((重機))の売却益及び取得価格の圧縮について)

一  大蔵事務官吉松隆作成の調査事績報告書(青色申告取得に伴う法人税額の特別控除額の否認について)

一  桂博の大蔵事務官に対する質問てん末書

一  桂博の検察官に対する供述調書

一  頼定聡の大蔵事務官に対する質問てん末書二通

一  頼定聡の検察官に対する供述調書

一  成広節子の大蔵事務官に対する質問てん末書四通

一  藤原猛の大蔵事務官に対する質問てん末書二通

一  加藤広子の大蔵事務官に対する質問てん末書三通

一  加藤広子の検察官に対する供述調書

一  楢村省三の大蔵事務官に対する質問てん末書一〇通

一  楢村省三の検察官に対する供述調書

一  村上寿典の大蔵事務官に対する質問てん末書九通

一  村上寿典の検察官に対する供述調書三通

一  被告人成広全通の大蔵事務官に対する質問てん末書二〇通

一  被告人成広全通の検察官に対する供述調書四通

一  被告人成広建材株式会社の登記簿謄本

一  証人朽木勝、松本茂、長谷川実雄の当公判廷における各供述

一  押収してある販売手数料支払い案内書綴一冊(昭和五六年押第一〇〇号の九)

一  押収してある固定資産台帳一冊(同号の一〇)

一  押収してある雑書綴一綴り(同号の一一)

一  検察事務官作成の「公租公課の犯罪額の確定について」と題する書面

一  被告人の当公判廷における供述

(判示第一の事実につき)

一  大蔵事務官岩崎清吉郎作成の調査事績報告書(架空修繕費の確定について)

一  中国電気工事株式会社金川営業所中島謙作成の証明書

一  小島英雄の大蔵事務官に対する質問てん末書

一  小島英雄の検察官に対する供述調書

一  大蔵事務官岩崎清吉郎作成の調査事績報告書(消耗品費の確定について)

一  栗本商事株式会社代表取締役土橋亮作成の証明書

一  大蔵事務官藤井一成作成の調査事績報告書(雑費の否認金額の確定について)

一  大蔵事務官岩崎清吉郎作成の調査事績報告書(減価償却費の確定について)

一  キャタピラー三菱株式会社中国支社長池上義治作成の証明書

一  浜名武の大蔵事務官に対する質問てん末書二通

一  浜名武の検察官に対する供述調書

一  内藤恒夫の大蔵事務官に対する質問てん末書二通

一  内藤恒夫の検察官に対する供述調書

一  大蔵事務官藤井一成の調査事績報告書(雑収入((その他))の除外金額の確定について)

一  キャタピラー三菱株式会社岡山支店長広兼幹也作成の証明書二通

一  日立建機株式会社岡山営業所長中嶋浩作成の証明書

一  東洋建機株式会社代表取締役難波有為作成の証明書

一  株式会社小松製作所中国支社長吉田勲作成の証明書

一  証人河頼俊憲に対する当裁判所の尋問調書

一  河頼俊憲の検察官に対する供述調書

一  証人中嶋浩の当公判廷における供述

一  押収してある請求書綴昭和五一年四月分一冊(昭和五六年押第一〇〇号の五)

一  押収してある請求書綴五二年一月分一冊(同号の六)

一  押収してある請求書綴昭和五二年一〇月分一冊(同号の七)

一  押収してある契約書綴一冊(同号の八)

(弁護人の主張に対する判断)

弁護人は、検察官の主張する固定資産売却益の除外による犯則金額(判示第一の年度につき六〇四万円、判示第二の年度につき一、〇二〇万円)を強く争い、検察官が主張するような、被告人会社が建設機械等(以下単に重機という)を購入するに際し、販売先に依頼して虚偽の請求書や契約書を作成せしめたうえ、下取価格を圧縮して下取車の売却益を少なくして計上した事実はないと主張している。

しかしながら前掲各証拠を総合すれば、被告人会社は、

<1>  昭和五二年二月一日キャタピラー三菱株式会社(以下単にキャタピラー三菱という)から、新品の九五〇ホイルローダーを購入するにあたり、中古のホイルローダーJH六五〇一台を、下取価格一七〇万円で同会社に売却したにもかかわらず、これを五〇万円で売却した旨計上して差額一二〇万円の下取売却益を圧縮した。

<2>  同月八日日立建機株式会社(以下単に日立建機という)から、油圧ショベルUH〇七を購入するにあたり、中古の油圧ショベルUH〇六一台を、下取価格一五〇万円で同会社に売却したにもかかわらず、同会社をして、同会社と被告人会社との間に、現実には関与していない東洋建機株式会社(以下単に東洋建機という)が、中間者として介在したかのような契約書を作成させるなど経理操作をなさしめ、これを五〇万円で売却した旨計上して差額一〇〇万円の下取売却益を圧縮した。

<3>  昭和五二年七月一〇日株式会社小松製作所(以下単に小松製作所という)から、その代理店松本建機株式会社(以下単に松本建機という)を介して、新品のホイルローダーJH六五〇Vを購入するにあたり、中古のホイルローダーJH六五〇一台を、下取価格四一八万円で代理店松本建機を介して小松製作所に売却したにもかかわらず、これを三四万円で売却した旨計上して差額三八四万円の下取売却益を圧縮した。

<4>  昭和五三年四月一日小松製作所からその代理店松本建機を介して新品のホイルローダーJH九〇EVを購入するにあたり、中古のホイルローダーJH九〇Eを下取価格九八〇万円、同じくHD五五〇を下取価格三二〇万円でそれぞれ代理店松本建機を介して、小松製作所に売却したにもかかわらず、前者を一五〇万円、後者を一三〇万円で売却した旨計上して、差額合計一〇二〇万円の下取売却益を圧縮した。

以上の各事実が認められる。

弁護人は<1>の下取価格について、キャタピラー三菱が、被告人会社に対し新品重機を代金一〇八〇万円で売却し、代金の内金五〇万円にあてるため被告人会社所有の中古重機を、右金額で下取りとして取得した旨の記載のあるキャタピラー三菱より被告人会社宛の昭和五二年二月一日付請求書(昭和五六年押第一〇号の六)が事実に合致すると主張し、その根拠として、(イ)下取りされた中古重機が小松製作所の製造にかかるものであるのに対し、その更新として購入された新品重機はキャタピラー三菱の製品であって、このことはキャタピラー三菱が小松製作所のシェアーを喰って進出したことを意味し、そこには両者間の激しい売込み競争が行われたことが推測されること、(ロ)キャタピラー三菱の査定員は、下取重機であるJH六五〇の価額を一〇〇万円と査定しており(池上義治作成の証明書のうちの中古車取得報告書)、検察官の主張する下取価格一七〇万円よりは、弁護人の主張する下取価格五〇万円の方が右査定価額に近いことを指摘している。

しかしながら(イ)の事由は、検察官主張の事実を推認させる事情でもあって、弁護人の主張の正当なことを裏付けるキメ手とはなり得ず、また(ロ)の事由については、証人河頼俊憲に対する尋問調書の記載によれば、査定員の査定価額は一応尊重はするが、新品の重機の値段をあまりさげたくないという売主側の要請と、追金(売買代金額から下取価格を控除した残額であって現実に支払う金額)の額を少なくしたいという買主側の要求がからみあって、下取価格を査定額より高く評価して取引する場合もあることが認められるので、これまた弁護人の主張が正当であることの根拠とはなりえない。

次に弁護人は<2>の下取価格について、証人中嶋浩が日立建機と被告人会社との間で、最終的には下取価格を五〇万円とすることで合意が成立したが、そのままの内容の契約書を作成すると日立建機としては対内的、対外的に支障があるため、両者の間に形式的に東洋建機を中間買主兼売主とする契約書を作成して形を整えた旨供述していると主張する。しかし証人中嶋浩の証言を仔細に検討すると、売主の日立建機としては、あくまでも下取価格を査定価額どおりの一五〇万円と評価し、そして新品重機の売買代金額を一一五〇万円として被告人会社との間で売買契約を締結したと考えており、ただ被告人成廣が下取価格を五〇万円にしてほしいと強く求めたので、売買には実質的には関与していない東洋建機の了解を得て、同会社が被告人会社から下取価格五〇万円で右下取重機を取得し、同時に日立建機が被告人会社に売却したのと同一の新品重機を、代金額一〇五〇万円で被告人会社に売却したかのような記載のある契約書を作成し、被告人会社と東洋建機との間ではそのような売買が行われたかのような形を整えたにすぎないという趣旨に右証言は理解できるので、弁護人の前記主張も採用できない。

次に弁護人は、<3>及び<4>の下取価格に関する小松製作所が所持する経理資料(昭和五二年七月三〇日付機械割賦販売並びに使用貸借契約書、昭和五二年六月三〇日付及び昭和五三年三月三一日付各売上原票、下取機種コードをJH九〇E及びカトウHD五五〇とする各下取車発生通知原票)は、小松製作所が一方的に作成したものであって、その代理店である松本建機すらも関与していないと主張する。しかし証人長谷川実雄、朽木勝、松本茂の当公判廷における各供述によれば、重機の販売の場合には、通常はメーカーである小松製作所が直接ユーザーである被告人会社に売却する旨の契約書を作成するのであるが、中古重機の下取りや、追金の額、支払条件などについての買い手側の要求が、必ずしも売り手である小松製作所の内部的な基準に合致しない場合、同会社は、中間に代理店である松本建機を、小松製作所との間では買主として、ユーザーである被告人会社との間では売主として介在させ、小松製作所と松本建機との間の売買の代金額、下取価額等は、小松製作所の内部的な基準に合致した取決めをし、これを前提として、松本建機をして被告人会社の要求をできるだけ容れた内容(但し追金の額は小松製作所と松本建機の売買に一致させる)の売買契約書を作成せしめていることが認められるのであって、この事実に照らすと松本建機の側では、小松製作所が新品重機の売却価格や下取重機の下取価格をいくらと決めて売却したのかを十分に知っていたものと認められるから、弁護人の前記主張は理由がない。

また弁護人は、<3>及び<4>の各下取価格に関する被告人会社が所持する資料(松本建機より被告人会社に対する昭和五二年七月一〇日付及び昭和五三年四月一日付各機械割賦販売並びに使用貸借契約書)に記載された下取価格は、小松製作所の内部資料である下取車発生通知原票に記載された統一価に近いのに対し、検察官主張の下取価格は、右統一価をはるかに上まわっているので、前記<3>及び<4>の各売買における真実の下取価格は前者であると主張する。

しかし証人長谷川実雄の当公判廷における供述によれば、右下取車発生通知原票の統一価は、小松製作所内部で機種ごとに製造後の経過年数に応じて割出した中古重機の一応の目安価格にすぎず、実際の売買にあっては、その時点の市場価格等をしんしゃくして査定員が評価する査定額が、下取価格の基準となることが認められ、しかも前記各下取車発生通知原票によれば、右査定額と検察官主張の下取価格は一致していることが認められるので、弁護人の前記主張は採用できない。

(法令の適用)

被告人成広建材株式会社につき

いずれも法人税法一五九条一項、二項。一六四条一項、刑法四五条前段、四八条二項。刑事訴訟法一八一条、一八二条

被告人成廣全通につき

いずれも行為時は昭和五六年法律第五四号による改正前の、裁判時は右改正後の各法人税法一五九条一項に該当するが、刑法六条、一〇条により行為時法を適用(いずれも懲役刑のみを選択)。

刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(判示第二の罪の刑に加重)。

刑法二五条一項。刑事訴訟法一八一条、一八二条。

よって主文のとおり判決する。

(裁判官 大浜恵弘)

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